小宮山逢邦 切り絵展「麗しき日本の情景 切り絵で魅せる静と艶」

2025.07.04

企画展 
小宮山逢邦 切り絵展「麗しき日本の情景 切り絵で魅せる静と艶」
2025年7月5日(土)~9月21日(日)まで  

ギャラリートーク 

作家ご本人によるギャラリートークを開催します。展示のことや制作秘話などお話していただきます。

7月 5日(土)10:00~「着物と切り絵」
        13:00~「挿絵と切り絵」
8月16日(土)13:30~「アートと切り絵」
9月13日(土)13:30~「世界のアートと切り絵」

館長あいさつ

この度、富士川・切り絵の森美術館では第38回企画展として、小宮山逢邦 切り絵展「麗しき日本の情景 切り絵で魅せる静と艶」を開催いたします。切り絵作家・小宮山逢邦(こみやま ほうぼう)氏は、1946年東京生まれ。武蔵野美術大学を卒業後、舞台美術家や着物図案家などさまざまな場面での修練を積み重ね、1997年より切り絵作家として本格的に活動を始めました。以降、時代小説の装画・装丁をはじめ、新聞・雑誌・WEBなど多様なメディアで活躍し、日本出版美術家連盟の理事長としても切り絵文化の普及に尽力されてきました。

小宮山氏の作品は、繊細な線と大胆な構図、そして黒と白のコントラストによって彩色の美がその迫力を増し、切り絵ならではの奥行きと立体感を見事に表現しています。テーマも多彩で、江戸の風情漂う風景や、女性の内なる美を描いたもの、さらには生命の本質に迫るようなエロティスムを主題にした作品まで、実に幅広い世界観が展開されています。特に「東京百景」や「富嶽百景」などの風景画と、「源氏物語」に着想を得た幻想的で艶やかな作品群は、日本の美を多方面から観る者の心に迫り感動を与えます。

とりわけ注目すべきは、「型彫り」技術へのこだわりです。これは、型染めに用いる渋紙を「突彫り」手法で彫る伝統的技術です。全体を切り抜くと崩れてしまう紙に対して、繋ぎ部分に細心の注意を払いながら彫り進めるこの技術は、切り絵における繊細で緻密な視覚表現に活かされています。それはまさに、培われた「職人の美学」に他なりません。また、もうひとつの大きな特徴として「彩色」の技術があります。切り絵の完成後にトレーシングペーパーで色ごとにパーツを写し取り、パステルや顔料絵具で色彩を調整しながら裏貼りしていきます。赤に緑、黄色に紫といった補色を重ね合わせ、彩度を意図的に落とすことで深みのある陰影を生み出す技法は、若き日々に着物図案家として学んだ「色を殺す」配色哲学に通じています。その結果、華やかさの中に凛とした静けさが生まれ、観る者の心を穏やかに揺さぶります。さらに、切り絵の線を引き立てる紙選びにも独自の美学が宿ります。現在は製造されていない「ワトソン紙」や、発色の良い「キャンソン紙」を作品の雰囲気に応じて使い分け、素材と技法、色彩のすべてが緻密に表現された世界観を形成しています。

本展では、富士山を題材とした作品群も数多く展示しています。実際に現地を取材し、見る角度によって異なる「富士の表情」を立体的に捉えるその視点には、職人的な眼差しと芸術家としての構想力が結晶しています。また小宮山氏は、芸術における「エロティスムとは生命であり、人間の歴史そのものだ」と語ります。その言葉の通り、芸術の根源にある「生と美」を静かに、しかし力強く描き出すその作品群は、崇高であり、そして本質的な感情を私たちに呼び起こします。
本展が、皆様にとって切り絵という世界の奥深さと、小宮山氏が追い続けてきた「美」の本質に触れるひとときとなれば幸いです。

 

作品のご紹介


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